平井の本棚に来ると、
エキナカにあるよな新刊書店を期待した人は狐につままれたような顔で、
古本好きなおじさまは見回してフンと鼻を鳴らすか、棚を褒めて手ぶらで、
本屋に入りつけない人は恐る恐る、何を選べばよいか途方にくれて、ぐるっと棚を眺めて帰っていく。
平井の本棚は中途半端。なんとかしたいが、いかんともしがたい。地味な平井で専門特化した店を開くほどの度量はない。ブックオフが撤退した街でミニブックオフを開いても仕方がない。迷いが棚に出ているので、店主もお客も少し困った顔をしている気がする。困った顔で選びあぐねて、文鳥文庫を手に帰る。
2階は本の在庫置場兼イベントスペース。12月は読書会を開催してみた。焼き芋と珈琲付き。作品は文鳥文庫。パラパラと数分で読めるから手ぶらで来てね、と毎週木曜夜に開催したら、若い子が通ってきてくれた。「さらに人が集いたくなる場所にしてほしい」と近所の建築家の卵にお願いしてみた。
くだらないと思われることを全力で、マニアックなことを突き詰めて、そういう人が徐々に集まってきた。開店は熊楠フェア、そのあとは岡本太郎と縄文、お触り自由の縄文土器も来た。そして地図フェア。空想地図の人、暗渠やスリバチ地形にはまった人など、いろんなジャンルの地図マニアが集結した。
徐々に「お店の棚にはこんな本が合いそう」とお客様自身が本をセレクトして持ってきてくださるようになった。ポップも書いてもらう。地図や散歩の本、食べ物や酒、飲み屋の本、落語、随筆・エッセイ。肩肘張らない気楽な本が集まってくる。並びの音楽教室のお稽古の行きかえりで親子連れが絵本を眺める。
こだわりの店になってみたい。でも緊張するし、くたびれるかも。こだわらない、ゆかいな店になれるとよい。
文鳥文庫をみて、深沢七郎の私家版「みちのくの人形たち」をお持ちになったお客様がいた。蛇腹状の体裁から連想したらしい。深沢七郎は一時期、平井から自転車で10分くらいの曳舟で夢屋という大判焼き屋を開いていた。
なんで大判焼き焼いてたんだろう、本棚の開店した理由を問われるたび、なんとなく、この作家を思い起こす。多分深い理由はなくて、なりゆきで開いたのかもしれない。
文鳥文庫を面白いなと思った子は、深沢七郎を手に取って、いつか読むかしらん。そんなことを考えている。